※ 2008年クリスマス企画「今夜は一緒に…」を読んだ後にお読みください。
「お前、絶対…ホモだよな」
片膝立てて乗り上げたテーブルの上で上半身を起こし、仄かに朱に染まった顔を歪ませてそう言った男に、ハンセキドウは「え〜、そうですか?」と不服そうな声を上げた。
「そうですか?じゃねーよ、絶対ホモだ、ホモ確定だ。じゃなきゃ、なんで男のモノ、嬉しそうに舐められるんだよ!」
怒鳴るサンタツに向かって、ハンセキドウが屈託のない目を向ける。
「そんなん決まってるでしょう。これが好きな人のものだからですよ」
そう言う手には、サンタツの男根がしっかりと握りしめられていて、先端がハンセキドウの唾液と、サンタツ自身が漏らした先走りで、テラテラと光っている。
「俺だって、誰のでも舐められるってわけじゃないんですよ。ただ、サンタツさんの身体だったら、どこでも舐められますけどね」
聞きようによっては酷く卑猥な台詞に、「嘘つけ!」と喚いたサンタツを見て、ハンセキドウが明るい笑い声を立てた。
「本当ですって。サンタツさんの身体だったら、足の裏でも尻の穴でも舐められるっすよ」
しかも、そう言った途端、自分の台詞を実証するかのように、立てていたサンタツの片膝をグッと押さえつけて、尖らせた舌先で窄まりを狙う。晒されるはずの無い部分に感じた生暖かい滑りに、流石のサンタツが小さな悲鳴を上げた。
「何しやがる!やめろ、クソガキ!!」
けれど、その時には、吸い付いたハンセキドウの舌は、サンタツの身体の中にまで潜り込んでいた。
「っく……」
唇をかみしめるサンタツの目に、顎を突き出すようにして自分の尻に吸い付くハンセキドウの姿が見える。
「やめ…ろ……」
熱い息の合い間に紡いだ言葉は、全然迫力がない。
それはハンセキドウも分かったみたいで、
「本当は気持ちいいんじゃないですか?溶けそうなくらい熱いですよ、ここ」
クスクスと満足そうに笑ったハンセキドウの忍び笑いが、サンタツのスイッチを入れてしまったのかもしれない。
「てめ……、溶けてんのは俺じゃねー。テメェの脳みそだ!」
叫んだ途端に、容赦のない足蹴りがハンセキドウの背中に振り落とされて、めり込んだ踵にハンセキドウが呻いた。
「っで!!」
尖らせていた舌を噛み切りそうになったのか、口と背中を押さえて床に沈む。
「ひ…ひろいっ…はんたふはん……」
おそらく、「ひ…酷いっ…サンタツさん……」とでも言ったのだろうが、涙目で自分を見上げるハンセキドウに、テーブルから跳ね起きたサンタツが投げつけたのは、「やりたきゃ、一人でやれ!!」という台詞で、
「俺はお前に抱かれてやる気なんか、これっぽっちも無いからな!俺をオカズに、一人空しくマスでもかいてろ!」と、乱れた着衣を整えながら付け加える。
サンタツはそのままベッドルームに鍵をかけて閉じこもってしまい、一人リビングダイニングに取り残されたハンセキドウはと言えば、「チェッ」と子供みたいな舌打ちをして床の上に座り直した。がっくりと肩を落とした姿を見れば、今日も失敗に終わった情交に心底落胆しているのだと分かる。
「蹴り、入れなくてもいいのにさ…」
恥ずかしがっているにしても酷い。
「…一部屋余計だよ、ここ……」
近衛の副隊長ともなれば、宿舎に個人の部屋――――それも二間続きの一人部屋を貰えるのは当たり前だが、こんな時には避難場所の存在が恨めしくもなろうというものだ。
だが、ハンセキドウより強いにも関わらず、無理やり部屋から追い出すでもなく、自分が別室に閉じこもって、しかも、「俺をオカズに」と言う辺り、ハンセキドウに想われているのが嫌なわけではないはずで……。
「まあ、フェラはさせてくれるようになったし、今日は後ろも舐めれたし、着実にステップアップはしてるよな」
ハンセキドウがサンタツに告白してから1年余り。蝸牛より鈍い進捗状況だが、進展していないわけでもない。
実際、セックスなら1回はしたのだ。その時は、ハンセキドウが入れられる方で、肝心のサンタツの記憶は酒で飛んでしまっているのだが…。
「取りあえず、押して押して押しまくれって兄上も言ってたし、気長に頑張るか〜」
ため息混じりながらも前向きな台詞を呟いて、立ち上がったハンセキドウが次にやったことと言えば、サンタツが閉じこもる寝室のドアの前まで行って、言われたとおりにサンタツの名前を呼びながら、一人寂しくシコシコと……
「――――やったんだって」
あっけらかんと言うコーシに、対面したコウコーカは「は…さようで……」と目を泳がせた。
年明けの寒さの中、六華宮の庭の東屋に非番だったコウコーカを呼んだコーシは、サンタツやショウライら王妃付きの護衛の近衛をまじえて、真面目な顔でハンセキドウの恋について相談した。
「あの、モモ様…、例え気心の知れたハンセキドウといえど、他人の私的な悩みを本人の知らぬ間に他の者に打ち明けられるというのは、いかがなものかと……」
至極良識的なことを口にするコウコーカが、冷や汗を浮かべている理由は他にあるのだが、コーシは無頓着なほどにあっさり首を振ると、
「大丈夫だと思うよ。ハンセキドウってば、俺だけじゃなくてジャナルやハンセキシンや、とにかく手当たりしだいに相談しているみたいだし、新年で六華宮に挨拶に来た時にも、振る舞い酒飲んで皆の前で泣いてたし…」
「み…皆の前ですか……」
横でピキッと顔を強張らせた腹心の部下の気配を感じて、コウコーカはそれ以上に身体を固くする。
「うん。ハンセキドウって酔うと泣き上戸なのかな?でも、おかげでハンセキドウがその人のこと、本気で好きっていう気持ちがビンビン伝わってきてさ、近従たちは同じ男だからハンセキドウに同情するのは当たり前だけど、話を聞いた侍女たちも皆ハンセキドウが可哀想だって言ってたよ。いい歳して勿体付けてるその彼女の方が悪いって。な、ユイレン」
話を振られて、お茶を運んできたユイレンが「そ、そうでしたか…?」とどもりながら、落ち着かない視線をコウコーカと交差させた。
ハンセキドウもさすがに相手がサンタツだと明かしてはいないようで、コーシもハンセキドウの相手が年上の女だと思っているようだが、その正体をこっそり覗き見て知っているコウコーカとユイレンとしては、当事者を横にして、頷くことも首を振ることもできない。
『…それにしても、別に勿体付けているわけではないのだろうに…』
チラリとサンタツに目をやれば、ひきつった笑いを浮かべてコーシの台詞を聞いている。
「もしかして、女の方はハンセキドウを弄(もてあそ)んでいるだけってことはないですか?ハンセキドウより年上といえば、熟女といっていい年齢ですし、経験豊富でしょうし、そう思いませんか?」
口を挟んだショウライが、当の熟女(サンタツ)に同意を求める。
「さ…さあ…どうかな」
空惚けたサンタツが言ったのは、「相手にその気はないんじゃないかな。ハンセキドウが一人で突っ走っているだけで…」という台詞で……
なのに、その途端にコーシが手ぶりを交えて間髪入れずに否定した。
「そんなわけ、無い無い。ハンセキドウを部屋に入れた時点で、もうOKってことだろ?途中まで許してるのに、その気は無いなんてこと、あり得ないじゃん。っていうか、その人だって抱かれる気満々に決まってるよ。ハンセキドウの話を聞いてたら、人柄は誠実そうだし、しっかり者みたいだし、結構美人で性格の可愛い人みたいだし、ハンセキドウのこと弄んでいるっていうより、ただ焦らしているだけなんじゃないのかな」
「…焦らす……抱かれる気満々………」
何も知らないとはいえ、全力で主張するコーシの言葉に、サンタツが思考停止状態でうつろに笑うのを、コウコーカは心臓が痛くなるほどの緊張感を持って聞いた。サンタツの今の立場を思いやれば、気の毒過ぎて顔も見られない。
「俺もローファンもさ、そこまでハンセキドウが本気になっているなら、何とかしてやりたいって思うんだよね。そりゃ、年上のどこの誰とも分からない人じゃ、家族に反対されるかもしれないけど、ハンセキドウはハン家の若様って言ったって4男だし、ハンセキシンも会ってみて人柄が優れていれば、よほど出自が悪くない限り許してやってもいいって言ってるし―――」
「「えっ!!」」
コウコーカとサンタツと……一様に顔を引きつらせる。
そんな二人に「やだな〜2人とも」とコーシが笑った。
「身分とか生まれって、そんなに大事なもの?ハンセキシンはむしろその辺の考え方はリベラルだよ。『ハンセキドウには年上のしっかり者の方が良いのかもしれん』とまで言ってたくらいだから。俺はその言葉を聞いて、さすがハンセキシンって思ったけど?」
身分や生まれよりも、まず人間性――――大将軍や王妃という位につく方が下々に示すありがたい理解と心遣いに、普通は感動しなければならないのだろうが、コーシが言葉を紡ぐたびに、コウコーカとサンタツの顔が蒼白になっていく。
全身に浮いた冷や汗が、ダラダラと流れ落ちて……。
「だからさ、ハンセキドウの身元引受人であるコウコーカさんが間に立って、この話を進めて欲しいんだ」
「こ……この話を進める…と申しますと……」
突然振られたとんでもない話に、コウコーカは思わずゴクリと唾を飲みこんだ。
「うん。まず、ハンセキドウの彼女の身元を調べて、結婚する意志があるか確認して、それで、できればまとめてあげてよ」
「ま…まとめる……のですか…?」
「うん、結婚させてあげてってこと」
「………………」
もう返事もできないコウコーカに、ユイレンの心配そうな目が向けられた。ユイレンの大事な恋兄は、降って沸いた災難に、見るからに動揺を隠せない様子だ。
「あ…あの…」
サンタツが掠れ声を出した。
「強引に話を進めても、その女性は喜ばないのでは?身分違いですし、年上ですし、身分や年齢以上のもっと大きな障壁があるかもしれませんし、できれば結婚…どころか、お付き合いも遠慮したいと思っているとか…」
「だから、ハンセキシンはハンセキドウさえ幸せになるなら、身分も年齢も問わないって」
あはは…と笑ったコーシは、話を切り上げるように立ち上がった。
「じゃあ、コウコーカさん、お願いね。皆もコウコーカさんに協力して、ハンセキドウの力になって上げてよ。特にサンタツはコウコーカさんの片腕だし、ハンセキドウにもすごく懐かれてるんだからさ、頼むね。ローファンがお昼を食べに帰ってくるから、俺、もう行くけど、コウコーカさん、なるべく早くにハンセキドウの彼女に会って、どんな人なのか、俺に教えて」
「寒い中、呼びだしちゃって悪かったね」と謝って、手を振って東屋を出ていくコーシを起立で見送るコウコーカの耳に、
「あいつ、絶対…」
震えるように「確信犯だ…」と言うサンタツの小さな呟きが聞こえた。
サンタツの言う「あいつ」がハンセキドウであることは疑うべくもない。
つまりは、中々先に進めない2人の関係に業を煮やして、ハンセキドウが確信犯的に自分の恋を吹聴して回ったということだろうか。
いや、あのハンセキドウに限ってそんな策を練るはずもなく、ただ単に、“素直で口の軽い甘えん坊”という“ハンセキドウらしさ”が前面に押し出された結果だとは思うのだが……どちらにしろ、凶悪なくらいに迷惑であることに変わりない。
年下の元部下の猛攻を必死に防いでいるにも関わらず、とんでもない状態に追い込まれたサンタツも哀れだが、二進も三進も行かなくなったのは自分も同じ。部下を思う男気と、主命を守る軍人魂の板挟みに加えて、サンタツとハンセキドウという信じられない2人の関係――――しかも、どうやら押し倒されているのはサンタツだという事態に、未だ自分自身が戸惑い続けている現状が付加されれば、さすがのコウコーカも途方に暮れるしかない。
『何も見なかったことにしようと決めたのに……』
2人のキスシーンを目撃した12月24日の夜の見張りを後悔してしまう。
いや、それよりも、宰相であるコンエイに頼まれて、何も考えずにハンセキドウの身元引受人を承諾してしまったのが悪かった。当時はこんな状況に追い込まれることなど想像もしていなかったのだからしょうがないのだが…。
『この世では、何が起こるか分からないということか…』
それは戦場でも人生でも同じなのだろう。
であれば、自分の予見が甘かったのだと潔く諦めるしかないのかもしれないと考えて、コウコーカは気持ちを切り替えるように一つ首を振った。
とりあえず、「自分とユイレンは知っている」とサンタツに明かし、「相手はサンタツでした」とコーシとハンセキシンに報告しなければいけない。
――――が、
その時の3人の顔を想像すると、一気に気が重くなって、やっぱり「はあ…」と大きなため息を付いてしまうコウコーカだった。
(了)
「お前、絶対…ホモだよな」
片膝立てて乗り上げたテーブルの上で上半身を起こし、仄かに朱に染まった顔を歪ませてそう言った男に、ハンセキドウは「え〜、そうですか?」と不服そうな声を上げた。
「そうですか?じゃねーよ、絶対ホモだ、ホモ確定だ。じゃなきゃ、なんで男のモノ、嬉しそうに舐められるんだよ!」
怒鳴るサンタツに向かって、ハンセキドウが屈託のない目を向ける。
「そんなん決まってるでしょう。これが好きな人のものだからですよ」
そう言う手には、サンタツの男根がしっかりと握りしめられていて、先端がハンセキドウの唾液と、サンタツ自身が漏らした先走りで、テラテラと光っている。
「俺だって、誰のでも舐められるってわけじゃないんですよ。ただ、サンタツさんの身体だったら、どこでも舐められますけどね」
聞きようによっては酷く卑猥な台詞に、「嘘つけ!」と喚いたサンタツを見て、ハンセキドウが明るい笑い声を立てた。
「本当ですって。サンタツさんの身体だったら、足の裏でも尻の穴でも舐められるっすよ」
しかも、そう言った途端、自分の台詞を実証するかのように、立てていたサンタツの片膝をグッと押さえつけて、尖らせた舌先で窄まりを狙う。晒されるはずの無い部分に感じた生暖かい滑りに、流石のサンタツが小さな悲鳴を上げた。
「何しやがる!やめろ、クソガキ!!」
けれど、その時には、吸い付いたハンセキドウの舌は、サンタツの身体の中にまで潜り込んでいた。
「っく……」
唇をかみしめるサンタツの目に、顎を突き出すようにして自分の尻に吸い付くハンセキドウの姿が見える。
「やめ…ろ……」
熱い息の合い間に紡いだ言葉は、全然迫力がない。
それはハンセキドウも分かったみたいで、
「本当は気持ちいいんじゃないですか?溶けそうなくらい熱いですよ、ここ」
クスクスと満足そうに笑ったハンセキドウの忍び笑いが、サンタツのスイッチを入れてしまったのかもしれない。
「てめ……、溶けてんのは俺じゃねー。テメェの脳みそだ!」
叫んだ途端に、容赦のない足蹴りがハンセキドウの背中に振り落とされて、めり込んだ踵にハンセキドウが呻いた。
「っで!!」
尖らせていた舌を噛み切りそうになったのか、口と背中を押さえて床に沈む。
「ひ…ひろいっ…はんたふはん……」
おそらく、「ひ…酷いっ…サンタツさん……」とでも言ったのだろうが、涙目で自分を見上げるハンセキドウに、テーブルから跳ね起きたサンタツが投げつけたのは、「やりたきゃ、一人でやれ!!」という台詞で、
「俺はお前に抱かれてやる気なんか、これっぽっちも無いからな!俺をオカズに、一人空しくマスでもかいてろ!」と、乱れた着衣を整えながら付け加える。
サンタツはそのままベッドルームに鍵をかけて閉じこもってしまい、一人リビングダイニングに取り残されたハンセキドウはと言えば、「チェッ」と子供みたいな舌打ちをして床の上に座り直した。がっくりと肩を落とした姿を見れば、今日も失敗に終わった情交に心底落胆しているのだと分かる。
「蹴り、入れなくてもいいのにさ…」
恥ずかしがっているにしても酷い。
「…一部屋余計だよ、ここ……」
近衛の副隊長ともなれば、宿舎に個人の部屋――――それも二間続きの一人部屋を貰えるのは当たり前だが、こんな時には避難場所の存在が恨めしくもなろうというものだ。
だが、ハンセキドウより強いにも関わらず、無理やり部屋から追い出すでもなく、自分が別室に閉じこもって、しかも、「俺をオカズに」と言う辺り、ハンセキドウに想われているのが嫌なわけではないはずで……。
「まあ、フェラはさせてくれるようになったし、今日は後ろも舐めれたし、着実にステップアップはしてるよな」
ハンセキドウがサンタツに告白してから1年余り。蝸牛より鈍い進捗状況だが、進展していないわけでもない。
実際、セックスなら1回はしたのだ。その時は、ハンセキドウが入れられる方で、肝心のサンタツの記憶は酒で飛んでしまっているのだが…。
「取りあえず、押して押して押しまくれって兄上も言ってたし、気長に頑張るか〜」
ため息混じりながらも前向きな台詞を呟いて、立ち上がったハンセキドウが次にやったことと言えば、サンタツが閉じこもる寝室のドアの前まで行って、言われたとおりにサンタツの名前を呼びながら、一人寂しくシコシコと……
「――――やったんだって」
あっけらかんと言うコーシに、対面したコウコーカは「は…さようで……」と目を泳がせた。
年明けの寒さの中、六華宮の庭の東屋に非番だったコウコーカを呼んだコーシは、サンタツやショウライら王妃付きの護衛の近衛をまじえて、真面目な顔でハンセキドウの恋について相談した。
「あの、モモ様…、例え気心の知れたハンセキドウといえど、他人の私的な悩みを本人の知らぬ間に他の者に打ち明けられるというのは、いかがなものかと……」
至極良識的なことを口にするコウコーカが、冷や汗を浮かべている理由は他にあるのだが、コーシは無頓着なほどにあっさり首を振ると、
「大丈夫だと思うよ。ハンセキドウってば、俺だけじゃなくてジャナルやハンセキシンや、とにかく手当たりしだいに相談しているみたいだし、新年で六華宮に挨拶に来た時にも、振る舞い酒飲んで皆の前で泣いてたし…」
「み…皆の前ですか……」
横でピキッと顔を強張らせた腹心の部下の気配を感じて、コウコーカはそれ以上に身体を固くする。
「うん。ハンセキドウって酔うと泣き上戸なのかな?でも、おかげでハンセキドウがその人のこと、本気で好きっていう気持ちがビンビン伝わってきてさ、近従たちは同じ男だからハンセキドウに同情するのは当たり前だけど、話を聞いた侍女たちも皆ハンセキドウが可哀想だって言ってたよ。いい歳して勿体付けてるその彼女の方が悪いって。な、ユイレン」
話を振られて、お茶を運んできたユイレンが「そ、そうでしたか…?」とどもりながら、落ち着かない視線をコウコーカと交差させた。
ハンセキドウもさすがに相手がサンタツだと明かしてはいないようで、コーシもハンセキドウの相手が年上の女だと思っているようだが、その正体をこっそり覗き見て知っているコウコーカとユイレンとしては、当事者を横にして、頷くことも首を振ることもできない。
『…それにしても、別に勿体付けているわけではないのだろうに…』
チラリとサンタツに目をやれば、ひきつった笑いを浮かべてコーシの台詞を聞いている。
「もしかして、女の方はハンセキドウを弄(もてあそ)んでいるだけってことはないですか?ハンセキドウより年上といえば、熟女といっていい年齢ですし、経験豊富でしょうし、そう思いませんか?」
口を挟んだショウライが、当の熟女(サンタツ)に同意を求める。
「さ…さあ…どうかな」
空惚けたサンタツが言ったのは、「相手にその気はないんじゃないかな。ハンセキドウが一人で突っ走っているだけで…」という台詞で……
なのに、その途端にコーシが手ぶりを交えて間髪入れずに否定した。
「そんなわけ、無い無い。ハンセキドウを部屋に入れた時点で、もうOKってことだろ?途中まで許してるのに、その気は無いなんてこと、あり得ないじゃん。っていうか、その人だって抱かれる気満々に決まってるよ。ハンセキドウの話を聞いてたら、人柄は誠実そうだし、しっかり者みたいだし、結構美人で性格の可愛い人みたいだし、ハンセキドウのこと弄んでいるっていうより、ただ焦らしているだけなんじゃないのかな」
「…焦らす……抱かれる気満々………」
何も知らないとはいえ、全力で主張するコーシの言葉に、サンタツが思考停止状態でうつろに笑うのを、コウコーカは心臓が痛くなるほどの緊張感を持って聞いた。サンタツの今の立場を思いやれば、気の毒過ぎて顔も見られない。
「俺もローファンもさ、そこまでハンセキドウが本気になっているなら、何とかしてやりたいって思うんだよね。そりゃ、年上のどこの誰とも分からない人じゃ、家族に反対されるかもしれないけど、ハンセキドウはハン家の若様って言ったって4男だし、ハンセキシンも会ってみて人柄が優れていれば、よほど出自が悪くない限り許してやってもいいって言ってるし―――」
「「えっ!!」」
コウコーカとサンタツと……一様に顔を引きつらせる。
そんな二人に「やだな〜2人とも」とコーシが笑った。
「身分とか生まれって、そんなに大事なもの?ハンセキシンはむしろその辺の考え方はリベラルだよ。『ハンセキドウには年上のしっかり者の方が良いのかもしれん』とまで言ってたくらいだから。俺はその言葉を聞いて、さすがハンセキシンって思ったけど?」
身分や生まれよりも、まず人間性――――大将軍や王妃という位につく方が下々に示すありがたい理解と心遣いに、普通は感動しなければならないのだろうが、コーシが言葉を紡ぐたびに、コウコーカとサンタツの顔が蒼白になっていく。
全身に浮いた冷や汗が、ダラダラと流れ落ちて……。
「だからさ、ハンセキドウの身元引受人であるコウコーカさんが間に立って、この話を進めて欲しいんだ」
「こ……この話を進める…と申しますと……」
突然振られたとんでもない話に、コウコーカは思わずゴクリと唾を飲みこんだ。
「うん。まず、ハンセキドウの彼女の身元を調べて、結婚する意志があるか確認して、それで、できればまとめてあげてよ」
「ま…まとめる……のですか…?」
「うん、結婚させてあげてってこと」
「………………」
もう返事もできないコウコーカに、ユイレンの心配そうな目が向けられた。ユイレンの大事な恋兄は、降って沸いた災難に、見るからに動揺を隠せない様子だ。
「あ…あの…」
サンタツが掠れ声を出した。
「強引に話を進めても、その女性は喜ばないのでは?身分違いですし、年上ですし、身分や年齢以上のもっと大きな障壁があるかもしれませんし、できれば結婚…どころか、お付き合いも遠慮したいと思っているとか…」
「だから、ハンセキシンはハンセキドウさえ幸せになるなら、身分も年齢も問わないって」
あはは…と笑ったコーシは、話を切り上げるように立ち上がった。
「じゃあ、コウコーカさん、お願いね。皆もコウコーカさんに協力して、ハンセキドウの力になって上げてよ。特にサンタツはコウコーカさんの片腕だし、ハンセキドウにもすごく懐かれてるんだからさ、頼むね。ローファンがお昼を食べに帰ってくるから、俺、もう行くけど、コウコーカさん、なるべく早くにハンセキドウの彼女に会って、どんな人なのか、俺に教えて」
「寒い中、呼びだしちゃって悪かったね」と謝って、手を振って東屋を出ていくコーシを起立で見送るコウコーカの耳に、
「あいつ、絶対…」
震えるように「確信犯だ…」と言うサンタツの小さな呟きが聞こえた。
サンタツの言う「あいつ」がハンセキドウであることは疑うべくもない。
つまりは、中々先に進めない2人の関係に業を煮やして、ハンセキドウが確信犯的に自分の恋を吹聴して回ったということだろうか。
いや、あのハンセキドウに限ってそんな策を練るはずもなく、ただ単に、“素直で口の軽い甘えん坊”という“ハンセキドウらしさ”が前面に押し出された結果だとは思うのだが……どちらにしろ、凶悪なくらいに迷惑であることに変わりない。
年下の元部下の猛攻を必死に防いでいるにも関わらず、とんでもない状態に追い込まれたサンタツも哀れだが、二進も三進も行かなくなったのは自分も同じ。部下を思う男気と、主命を守る軍人魂の板挟みに加えて、サンタツとハンセキドウという信じられない2人の関係――――しかも、どうやら押し倒されているのはサンタツだという事態に、未だ自分自身が戸惑い続けている現状が付加されれば、さすがのコウコーカも途方に暮れるしかない。
『何も見なかったことにしようと決めたのに……』
2人のキスシーンを目撃した12月24日の夜の見張りを後悔してしまう。
いや、それよりも、宰相であるコンエイに頼まれて、何も考えずにハンセキドウの身元引受人を承諾してしまったのが悪かった。当時はこんな状況に追い込まれることなど想像もしていなかったのだからしょうがないのだが…。
『この世では、何が起こるか分からないということか…』
それは戦場でも人生でも同じなのだろう。
であれば、自分の予見が甘かったのだと潔く諦めるしかないのかもしれないと考えて、コウコーカは気持ちを切り替えるように一つ首を振った。
とりあえず、「自分とユイレンは知っている」とサンタツに明かし、「相手はサンタツでした」とコーシとハンセキシンに報告しなければいけない。
――――が、
その時の3人の顔を想像すると、一気に気が重くなって、やっぱり「はあ…」と大きなため息を付いてしまうコウコーカだった。
(了)
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